「轍」を大切に歩むということ

「 キャリア」という言葉の語源をご存知でしょうか。

もともとは、馬車の車輪が道に残す「轍(わだち)」を意味しているそうです。このことは私が日頃から参考にしている山口周さんのnoteでも、「人生はプロセスが大事」と語られていますが、まさに医療にも通じる大切な視点だと感じています。

キャリアの語源はもともと、馬車の車輪が路上に残す「轍(わだち)」です。当たり前ですが轍は走る前には存在しません。馬車が走ったことで残った軌跡を、背後を振り返ってみて初めて認めることができるのが轍です。つまり、キャリアというのは語源からして「プロセスそのもの」ということなのです。(人生はプロセスが大事/山口周 https://note.com/shu_yamaguchi/n/n6b4f8b61e8b3)

この考え方は、私が日々患者さんやご家族と向き合う診療現場にもつながっています。緩和ケアや在宅医療は、病気の治療だけではなく、人生という道程そのものを大事にする医療です。

「先生は何科が専門ですか?」・・・何科なんでしょうね?

さて、私の専門についてご質問いただく機会も多いのですが、正直に申し上げると、一言で表すのはいつも難しさを感じています。

「緩和医療専門医です」とお伝えしても、まだ馴染みのある方は少なく、具体的にどんなことが専門なのかご説明することが多いです。

「緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチで、その領域を専門にしています」・・・やはりわかりにくいですね。

「循環器専門医です」と言えばもちろん正解ではあるのですが、自分としては循環器だけを専門としているわけではありません。ちなみに循環器というと?が浮かぶ方も多いと思いますが、ざっくり言うと心臓や血管、血圧などのことです。

また、「総合内科専門医」と名乗ることもありますが、個人的に臓器ごとの専門医のイメージが強く、かつ謎の万能感もある言葉なので、私自身あまり使いたがらないところです。

私自身が目指しているのは、病気を診るだけの医師ではありません。患者さんご本人だけでなく、ご家族全体、さらには地域全体を見守れる「総合医」でありたいと常々考えております。内科、心臓病、そして緩和医療まで幅広く理解し、どんな方にも安心してご相談いただける存在を理想としています。

循環器専門医を目指してキャリアをスタート、しかし

私の医師としてのキャリア迷いの連続でした。病院実習では「何科になるんだ?(ウチの科に来い)」と各科の先生から熱心に勧誘していただきましたが、どの科も魅力的で1つ選ぶのは本当に困難でした。最終的に、一番興味のあった心臓病・循環器医を目指すことにしました。

しかし、実際に研修医として患者さんと向き合っていくうちに、心臓病だけを診ていては解決できない複雑な問題や、さまざまな症状を抱えた方々に多く出会いました。一時期は、研修先で最も多くの入院患者さんを担当し、その半数が心疾患、残りは肺や腎臓、膠原病、そして診断が付かない方でした

アメリカのように「自分の専門外は診ない」と割り切るのも一つかもしれませんが、私は「どんな病気の患者さんにもできる限り寄り添いたい」と思うようになりました。そうして飯塚病院の総合内科で後期研修を行う決断をして、広い分野を横断して学ぶ機会を得ました。

その後は循環器や集中治療の専門研修を深めるなかで、医療だけでは解決できない――人生観や意思決定支援といった、人間として向き合うべき課題にも直面しました。

たとえば、意識を失われて救急搬送された方に、非常に厳しい治療を勧めてよいものか、ご本人が意思表示できない場合、ご家族も悩みます。その苦しさや迷いを受け止めることも、総合医としての大切な役割だと痛感しました。その答えを探していく中で、緩和ケアと出会いました。治す医療だけでなく、苦痛を和らげ「どのように過ごしたいか」をご本人、ご家族と一緒に考える医療です。

患者さん、ご家族、地域全体と向き合う

こうして私は、循環器、総合内科、緩和医療の全てを深く学べる機会を得て、それぞれの分野で専門医を取得しました。「専門医コレクター」のようだと言われてしまうこともありますが、私の根底にあるのは「患者さんとご家族、地域全体と向き合う」という揺るぎない想いです。そのため、自然な流れで今のキャリアに至ったのだと感じています。

皆さんの「人生という道のり」を安心して歩んでいただけるよう、これからも学び続け、寄り添い続けていきたいと考えています。どんな小さなことでも、ぜひご相談ください。あなたとご家族らしさの「轍」ができるよう、支える医師でありたいと思っています。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次